9 つるの話 The Evening Crane

sound text 9 つるの話
    sound text sound text  昔、ある村に一人のびんぼうな若者が住んでいました。 sound text いつもまじめに働いていましたが、生活は全然楽にはなりませんでした。 sound text ある日、いつもと同じように、山へ木を取りに行きました。 sound text 家に帰る途中で、野原の雪の中につるがたおれているのを見つけました。 sound text つるは、羽にけがをして、苦しそうに鳴いていました。 sound text 若者は、けがをしたところを川の水で洗ったり、薬をつけたりして、助けてやりました。 sound text 元気になったつるは、何度もおじぎをして、空へとび上がりました。 sound text そして、若者の頭の上をゆっくり回ってから、山の向こうへとんで行きました。
    sound text sound text  それから二、三日たった、雪の降る夜、若者が家の中で仕事をしている時、戸をたたく音が聞こえました。
    sound text sound text  「こんなに夜おそく、だれだろう。」 sound text そう思いながら、若者は戸を開けてみました。 sound text そこには一人の美しい娘が立っていました。 sound text 「私は、しんるいの家へ行くところですが、途中で、道にまよってしまいました。すみませんが、ちょっと休ませてくださいませんか。」
    sound text sound text  「それは大変でしたね。どうぞ中に入って、休んで行ってください。寒かったでしょう。さあ、火のそばへ来て、あたたかい物を食べてください。」
    sound text sound text  その夜、親切な若者はその娘をとめてあげました。 sound text つぎの日、朝早くから娘は、食事の用意をしたり、そうじをしたりして、いっしょうけんめいに家の中の用事をしました。 sound text その日から娘はずっと若者の家にいるようになりました。
    sound text sound text  ある日、娘は若者に言いました。
    sound text sound text  「私はこれから特別の糸で布を作ります。その布ができたら、町へ売りに行ってください。町の人々は、めずらしがって、高く買ってくれるはずです。でも、私が仕事をしている時は、部屋の中を見ないでください。」
    sound text sound text  娘は、部屋に入ったまま、ずっと中で仕事をしていました。 sound text そして、一週間後に、美しい布を持って、出て来ました。 sound text 若者は、その布を町へ持って行って、売りました。 sound text 人々は、「見たことも聞いたこともないめずらしい布だ。こういうすばらしい布なら、高くても買いたい。」と言って、高いねだんで買いました。
    sound text sound text  若者がお金をたくさん持って、喜んで帰って来たので、娘もうれしそうな顔をしました。 sound text その日から若者は、お金がもっと欲しくなり、娘を働かせるようになりました。 sound text 娘は、だんだん顔色がわるくなり、やせてきましたが、若者の喜ぶ顔が見たくて、布を作り続けました。
    sound text sound text  ある日、若者は娘の部屋の中を見たくなりました。
    sound text sound text  「どうして、あんな美しい布ができるのだろう。ちょっとだけなら、見てもかまわないだろう。」と思って、娘の働いている部屋へ行ってみました。 sound text 若者は中を見て、びっくりしてしまいました。 sound text 部屋の中では、やせたつるが自分の羽を一本一本取り、それで布を作っていたのです。
    sound text sound text  若者に見られたのを知った娘は、部屋から出て来て、静かに言いました。
    sound text sound text  「あなたは、私の部屋の中を見ないと約束したのに、見てしまいましたね。私は前に助けていただいたつるなのです。あなたのために、働こうと思って、この家に来ました。でも、あなたが約束を守らなかったので、もういっしょにいることができません。」 sound text 娘は、泣きながら、外へ出て行きました。
    sound text sound text   「わたしがわるかった。ゆるしてくれ。わたしのそばにいてくれ。」
    sound text sound text  若者が娘を追いかけて外へ出た時、鳥の鳴く声がしました。 sound text 外にはもう娘はいませんでした。 sound text 夕方の空を白いつるがとんでいるのが見えました。 sound text つるは、悲しそうに高い声で鳴きながら、夕やけの赤い雲の中に消えて行ってしまいました。